火星の南極に映る「紫色の渦巻き」-氷崖と火山鉱物が織りなす色彩

欧州宇宙機関(ESA)の火星探査機「マーズ・エクスプレス」が捉えた画像には、見慣れた赤茶色の火星とは全く異なる光景が映っていた。紫、ピンク、赤といった鮮やかな色彩に彩られた火星の南極付近の氷崖「セイレス・ルペス」(Thyles Rupes)である。

火星は酸化鉄による褐色や赤褐色が特徴とされてきたが、実は多くの色彩に満ちている。マーズ・エクスプレスに搭載された高解像度ステレオカメラ(HRSC)が撮影したこの画像は、その美しさを見事に表現している。

火山鉱物と凍結ガスが作る色のパレット

この画像の色彩はいくつかの要因によって生まれている。暗い色合いは火山活動に由来する物質で、オリビン(かんらん石)やパイロキセン(輝石)といったマフィック鉱物に富んでいる。これらは地球のマントルにも存在する鉱物だ。

一方、淡い色の領域は二酸化炭素の霜が堆積した場所である。火星の春季に撮影されたこの画像でも、砂丘の上やクレーター内に青白い堆積物として残存していた。南極氷冠の一部である氷河も画面の左下に薄い色合いで確認できる。

全体的な紫色は、光、大気中の塵、地面を覆う霜、そして散在する氷塵の混合が組み合わさることで生まれている。火星大気は時間とともに変動しやすく、朝日を受けたときの柔らかい光、浮遊する塵、広がる霜が相互に作用して、この独特の色調を演出している。

古い地殻変動が刻んだ高さ1キロの崖

セイレス・ルペスは標高1キロを超える場所もある急峻な崖として知られている。その成因はテクトニック(地殻変動)とみられており、火星内部の冷却に伴う収縮で地殻が変形し、地表の異なるブロックが押し上げられることで形成されたと考えられている。現在の火星は活発な地殻変動を持たないが、この崖の形成は数十億年前に遡る。

南極地域の高地に位置するセイレス・ルペスは数百キロメートルにわたって延びており、無数のインパクトクレーターで覆われた地形を横切っている。崖によって切られたクレーターと、崖の上に乗るクレーターの両方が見られることから、地質学的な歴史の複雑さが読み取れる。

撮影地点周辺には、風によって形成された様々な砂丘も観察される。多方向からの風が砂を堆積させた結果、縦走砂丘や横走砂丘、そして三日月形のバルハンクレストなど、複数の形態を持つ砂丘が存在している。

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出典: ESA Space Science