銀河観測の合間に彗星発見―ユークリッド宇宙望遠鏡の予期せぬ成果
ダークエネルギーの謎を解く遠方銀河の観測という主要任務の最中、ヨーロッパ宇宙機関(ESA)のユークリッド宇宙望遠鏡が思わぬ成果をあげた。2026年9月16日から24日の間に撮影された複数の画像の中から、新しい彗星を発見したのである。彗星C/2026 S1(ユークリッド)と命名されたこの天体は、ユークリッド望遠鏡が初めて発見した彗星だ。
ユークリッド望遠鏡は2023年7月初旬に打ち上げられ、約15億個の遠方銀河を観測してその赤方偏移を測定することで、宇宙膨張の歴史とそれを駆動する力たるダークエネルギーの解明を目指している。赤方偏移z=2に相当する観測は、約100億年前の宇宙を見つめることに等しい。こうした深い宇宙観測に特化した望遠鏡にとって、銀河系内を高速で移動する彗星を捉えるのは本来、想定外の出来事である。
新たなソフトウェアが「筋状の光跡」を検出
彗星の発見は、ヘルシンキ大学のミッコ・ポンティネンが設計した新しい解析ソフトウェアによってもたらされた。ポンティネンはユークリッド・コンソーシアムの太陽系天体科学作業部会と協力し、複数の画像に映る「筋状の光跡」がある高速移動体の痕跡であることを識別した。その位置を予測することで、合計5組の画像セットの中にこの天体を特定できたという。さらに詳しく調べると、彗星の周囲にはぼやけた雲状の構造が観察された。ダストと揮発成分を放出する活動的な天体の典型的な特徴である。
彗星は太陽系初期の45億年以上前に遺された氷質・塵質天体であり、オールトの雲やカイパーベルトから供給される。太陽系内部に接近すると、太陽の熱によって揮発成分が昇華し、コマと呼ばれるぼやけた雲状の構造と尾を形成する。太陽系形成期の原始的な物質そのものである彗星は、惑星系成長の過程を解き明かす鍵を握る存在だ。特に水を内太陽系にもたらした輸送体としての役割が注視されている。
異なる軌道面の偶然の産物
ポンティネンが既知の彗星と小惑星との照合を行った結果、既存の太陽系天体との一致はなかった。発見報告は小惑星センター(MPC)に提出され、国際的な命名規約に従いC/2026 S1(ユークリッド)という名称を得た。地上観測による確認観測もこの発見を裏付けている。
現在、C/2026 S1(ユークリッド)は地球から約13億km離れた位置にあり、これは太陽からおよそ木星と土星の軌道の中間地点までの距離に相当する。この彗星は数千年の公転周期を持つ長周期彗星である。
ユークリッド望遠鏡がこの彗星を捉えることができたのは、むしろ極めて稀な幸運の産物といえる。惑星が公転する平面に沿って軌道を描く天体のほとんどに対し、C/2026 S1(ユークリッド)は銀河面の上方に弧を描くように公転している。ユークリッド望遠鏡は銀河面観測を避けている。銀河面には深宇宙観測を困難にする塵が充満しているためだ。しかしこの彗星の異なる軌道傾斜が、観測機の視野内に存在する機会をもたらしたのである。
発見は龍座に位置するユークリッド・ディープ・フィールド・ノースにおいて、合計16回の露出(各視野あたり2~4回)で撮影された5つの部分視野に映っていた。同領域は赤外線天文台である故スピッツァー宇宙望遠鏡の深空調査領域と重なる設定になっていた。
出典: Universe Today
