高速電波バースト114個の解析で、宇宙の物質分布の謎に新たな手がかり
ミリ秒から数秒間の短い時間だけ観測される高速電波バースト(Fast Radio Bursts、FRB)。銀河系外から飛来するこの謎めいた現象が、宇宙最大級の謎を解く鍵になるかもしれない。カリフォルニア工科大学(Caltech)の研究チームは、114個のFRBを分析し、ダークマターやダークエネルギー、ニュートリノといった未解明の物質・エネルギーの性質を探る新しい方法論を示唆する研究成果を『Nature Astronomy』に発表した。
FRBが明かす、銀河周辺の物質分布
高速電波バーストの本体は、わずかなラジオ波の閃光だ。数十億光年の距離を旅する間、ガスや塵、その他の物質の層を通過していく。この過程で信号が散乱する度合いが大きいほど、その経路上に存在する物質が密集していることを意味する。この性質を利用すれば、宇宙全体における通常の物質(バリオン)の分布状況を追跡することが可能になる。
Caltechのカハル天文・天体物理学センターの天文学教授ビクラム・ラビ氏の指導下にある大学院生クリッティ・シャルマ氏は、この研究を主導した。彼らの分析結果は、銀河の周辺で起きている現象に光を当てている。銀河は恒星からの加熱作用や超新星爆発、さらに超大質量ブラックホール(SMBH)が放出する強力な風といった「フィードバック」を通じて、周囲のガスを遠くへ散乱させる。この過程で、星間物質の密集度が低下し、物質分布がより均等になるというのだ。
ラビ教授は指摘する。銀河からのフィードバックが周辺のガスを薄く伸ばし、物質を広大な距離に再分配する現象が、巨大なニュートリノの質量効果やダークエネルギー、ダークマター理論が予測する影響と驚くほど似ているということだ。つまり、複数の物理現象が同じような効果を生み出すため、フィードバックの寄与を独立して測定できない限り、宇宙観測データから真の原因を区別することは困難なのである。
次世代の観測施設が拓く、大規模FRB調査の時代
今回の研究は、114個というまだ限定的なサンプル数に基づいている。にもかかわらず、得られた結果はeROSITA X線望遠鏡やアタカマ宇宙論望遠鏡による調査と比較可能な精度を示した。
カナダ水素強度マッピング実験(CHIME)は既に数千個のFRBを検出している。さらに注目すべきは、ラビ教授が副主任研究者を務めるCaltech深部広視野合成望遠鏡(DSA)の完成予定だ。2029年の完成時には、数万個のFRBが検出できるようになると期待されている。これにより、FRBを宇宙論の測定ツールとして本格的に活用する道が開ける。
これらの観測成果は、欧州宇宙機関(ESA)のユークリッド・ミッション、ダークエネルギー分光観測装置(DESI)、ベラ・ルービン天文台、ナンシー・グレース・ローマン宇宙望遠鏡といった次世代の大型観測プロジェクトの成果と組み合わさることで、宇宙の物質・エネルギー構造に関する理解を飛躍的に深めるだろう。それは、ダークマターとダークエネルギーの謎を最終的に解く日が来ることを意味している。
出典: Universe Today
