月面都市構想は水不足で成り立たない——ハーバード・スミソニアン天体物理学センターの研究が指摘

月面への移住計画が現実的でない理由を、具体的な数字で示す論文が発表された。スミソニアン天体物理学センター(ハーバード・スミソニアン)のマーティン・エルヴィス博士とダーラム大学宇宙研究センターのジョナサン・マクダウェル博士は、学術誌「Frontiers in Space Technologies」に論文「No cities on the Moon: a billion tons of water is not enough for sustainability」を発表。月面での人間の大規模定住には、現実的には利用できる水が決定的に不足することを論じている。

月の広さとリソースの幻想

月面都市という構想は根強い。20世紀半ばの宇宙開発初期には、SFとしてだけでなく、米陸軍の「プロジェクト・ホライゾン」といった本格的な軍事・科学基地構想も存在した。近年、月に数十億年前の古い水氷が大量に存在することが確認されると、この構想は新たに息を吹き返した。

エルヴィス博士とマクダウェル博士は論文の中で、月の広さに着目した議論を検証した。月の表面積は約3793万平方キロメートルで、北米大陸(約2471万平方キロメートル)の約1.5倍である。こうした規模から「月を『第8大陸』と見なし、資源が無尽蔵で産業や定住に大きな制約がないと考える著者も少なくない」と指摘。しかし実際には、月面の水氷はほぼ月の南北両極の近くにある永久影領域(Permanently Shadowed Regions)に限定されている。シャックルトン・クレーターなど、幅21キロメートルの巨大クレーターの底部に太陽光が当たらない場所が存在し、そこに古い氷が保護されている。

電力さえあれば百万人の定住は可能——ただし水が足りない

エルヴィス博士らが検討した想定は極めて野心的だ。月面での意味のある経済活動を前提とすれば、地球人口の1パーセント相当、すなわち約8000万人が月に住む必要があると考えられる。一方で電力については、論文執筆者たちは楽観的である。クレーターの底には氷があるが、同じクレーターの縁は太陽光をほぼ常時受けており、垂直型の太陽光発電パネルを設置する最適地となる。パネルは数メートルから1キロメートル程度の高さに設置でき、地平線上の太陽の動きに追従する回転機構も可能だという。

論文の計算によると、太陽光発電または核分裂炉による電力供給があれば、百万人の月面定住を支える余裕がある。ただし核融合炉が実現すれば、数百万人規模の人口を支えるうえで必須になると述べている。つまり、電力は制約要因ではなく、問題は別の場所にある。

実現に向けての唯一にして最大の障壁は水だ。月面での水の採取、加熱、輸送、そして持続的な利用を支えるだけの水量が根本的に不足しているというのが、彼らの結論である。

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出典: Universe Today