1000℃の原子炉で月の夜を乗り切る—恒久的な月面基地へのブレークスルー
月の夜は約14日間続き、気温は氷点下223℃に達する極限環境だ。人類が月に恒久的な居住地を築くには、太陽に頼らない安定した電源が不可欠となる。ミュンヘン工科大学のユリウス・メルツらが発表した論文で提案されている「MULE」(Microreactor Utilisation for Lunar Exploration)と呼ばれる小型原子炉は、単なる生活用電力の供給にとどまらず、月面での資源採掘を同時に実現する設計になっている。
月の塵から資源を取り出すエネルギー課題
月面基地の建設・維持に必要な物資をすべて地球から輸送するのは現実的でない。1キログラムあたり数万ドルという莫大な費用がかかるためだ。その代わり、月面に広がるレゴリス(月の塵)から酸素と金属材料を抽出することが重要な戦略となる。この採掘に用いられるのが「融融塩電解」(Molten Salt Electrolysis)という技術だ。月の塵を液体塩に溶かし、電流を流して酸素を分離し、金属合金を得るというプロセスである。ただし、この反応には900℃を超える温度が必要とされ、極めて大量のエネルギーを消費する。従来の月面基地計画では、この熱を電気ヒーターで供給してきた。しかし、熱エネルギーを電力に変換する際、約60%のエネルギーが廃熱として失われてしまい、融融塩電解のような高エネルギー消費プロセスの効率を大きく損なう問題があった。
熱を連鎖利用するMULE原子炉の仕組み
MULEの革新的な点は、原子炉の熱を段階的に活用する「カスケード」設計にある。
まず第一段階では、原子炉から出る約1000℃の熱が融融塩電解反応に直接供給される。同時に熱蓄電池のような「熱貯蔵バンク」が装備され、反応に安定した熱を保ち、原子炉が停止した場合でも機能を維持できる仕組みになっている。
次の段階では、冷えた750℃の熱を使って閉鎖ブレイトンサイクル(Closed-loop Brayton cycle)により発電が行われる。膨張ガスでタービンを回し、通常の方法で電気を生成するシステムだ。その後、ガスはさらに冷却されて150℃になり、この熱は居住区の暖房に充てられる。最終的に残った75℃の排熱は熱放射器で宇宙空間に赤外線として放出される。
原子炉本体の構造も従来のものと大きく異なる。制御棒の代わりに、炭化ケイ素を主成分とする全セラミック製のコアを採用し、37個の六角形燃料集合体に「TRISO粒子」(TRIstructural-ISOtropic particles)を装填している。ケシ粒ほどの大きさのこれら燃料ペレットには、ウラン炭化物の燃料核が、炭素とセラミックの3層の保護殻に覆われている。各層が微小な圧力容器として機能し、燃料がほぼ融けない構造が実現されている。燃料のウラン235濃縮度は93%に設定される予定で、兵器級には至らないものの、地球の原子炉の一般的な2~3%濃縮度をはるかに上回る。
出典: Universe Today
