フォボスの表面ダイナミクス地図、JAXAの火星衛星探査が新たな段階へ
火星の衛星フォボスは、土豆のような不規則な形をした小さな天体だ。直径わずか11キロメートルながら、その起源は今なお謎に包まれている。小惑星が捕捉されたものなのか、火星への衝突によって放出された物質から形成されたのか、それとも何らかの複合的なプロセスの産物なのか。科学者たちの見解は分かれている。
この謎多き天体から人類が初めてサンプルを採取しようとしている。日本宇宙航空研究開発機構(JAXA)が進める火星衛星探査ミッション(MMX)は、本来10月に打ち上げられる予定で、2027年にフォボスに到着し、成功すれば2031年にサンプルを地球に帰還させる計画だ。
こうした野心的なミッションを支援するため、欧州の研究者たちがフォボスの表面を詳細にマッピングした新たなアトラスを作成した。スペイン・マドリッドのスペイン天文生物学センター(Centro de Astrobiología)のイサベル・エレロス(Isabel Herreros)と、フランス・パリのパリ地球物理学研究所(Institut de Physique du Globe de Paris)のセバスチャン・チャルノッツ(Sébastien Charnoz)の研究チームである。彼らの成果は「The dynamical surface of Phobos: A morphodynamic atlas」と題する論文で、学術誌『地球惑星科学レター』(Earth and Planetary Science Letters)に発表されている。
地球とは異なる物理法則が支配する世界
フォボスの表面では、地球での物質移動とは全く異なるメカニズムが働いている。地球では重力が物質運動を支配するが、フォボスのような低重力環境では事情が変わる。エレロスとチャルノッツらは「フォボスは自己重力、時間変動するマーズ潮汐、慣性力の複合的な影響を受ける極めてダイナミックな環境に位置している」と指摘する。
レゴリス(砂塵や岩屑)といった緩い物質の動きを予測するうえで、地形の傾斜勾配だけでは不十分であり、力学的アプローチが不可欠だという。研究チームは遠心力、潮汐力、コリオリの力といった軌道・回転に由来する力も含めて、フォボス表面の物質安定性と移動性を解析した。
サンプル採取地点の選定を支援するマッピング
研究チームはデジタル地形モデル(DTM)を基礎とした形態力学的アトラス(morphodynamic atlas)を構築した。このモデルには、溝、直線模様、山崩れといった地表地形のほか、スティックニー・クレーター(Stickney Crater)などの衝突クレーター、異なるスペクトル単位を持つ地域が網羅されている。
加速度ベクトルのマッピングにより、フォボス表面のどこで物質が動きやすいのか、どこで動きにくいのかが明らかになった。これまでの研究では不安定な領域の特定が進んでいたものの、移動した物質がどこに到達するのかまでは明確ではなかった。MMXは約10グラムのサンプル採取を計画しており、表面物質の動的挙動を把握することは採取地点の最適な選定に直結する。この新たなアトラスは、JAXAのミッションが貴重なサンプルを効果的に回収するための羅針盤となるのだ。
出典: Universe Today
