カンボジアの古寺院に隠された壁画をよみがえらせた、NASAの衛星画像技術
カンボジアの古代寺院アンコール・ワットの中央塔高部に描かれた馬上の人物像や伝統音楽の演奏風景。毎日数千人の訪問者がこの空間を通り過ぎるが、ほぼ誰も気づかない。褪色が進み、ほとんど見えない状態だったこれらの壁画は2010年から2012年にかけて発見された。同じ時期に、複合建造物全体で約200点の壁画が相次いで見出された。これらの発見を可能にしたのは、NASAのジェット推進研究所(JPL)で開発された画像解析手法だった。
火星観測で生まれた技術が考古学の現場へ
その手法の名は「decorrelation stretch(デコリレーション・ストレッチ)」という。デジタル画像内のコントラストを強調し、細部を浮き立たせる技術である。考古学分野、特に古代の岩絵研究で広く用いられるようになった背景には、一人の研究者の趣味と職歴が偶然交わったという経緯がある。
2005年頃、岩絵愛好家のジョン・ハーマン(Jon Harman)はNASAが公開した火星表面の衛星画像を目にした。decorrelation stretchを適用したものと未適用のものが並べられていた。その際の詳細の浮き出ぶりに驚いたハーマンは、古く褪色した画像の研究に同じ技術が応用できるのではないかと直感した。ハーマンは医療画像処理の経歴を持つ。「Googleで検索してNASAの論文を見つけ、アルゴリズムの実装方法を理解した」とハーマンは述べている。「医療画像の経験があったから、自分でもできると思った。だから実装してみたんだ」。その論文はNASAの研究者によって執筆されたものだった。
カリフォルニア州パシフィカで現在は退職生活を送るハーマンは、火星探査で開発された手法を考古学へと導いた。結果として、アンコール・ワット全域の壁画群は現代の研究者たちに新たな姿で再発見されることになった。
