古い火星の隕石から大量の水の痕跡――数十億年前の湿潤な火星像が浮かび上がる
Northwest Africa 7034(NWA 7034)、通称「Black Beauty」という隕石が、火星の地殻に含まれていた水について重要な手がかりを与えてくれた。デンマーク工科大学を中心とした国際研究チームが、この隕石を精密に分析した結果を学術誌「Geophysical Research Letters」に発表したのだ。Black Beautyは火星起源の隕石として唯一知られるもので、数十億年前の衝撃で火星地殻から吹き飛ばされ、やがて地球の重力に引かれて落下したと考えられている。その年代は約44~45億年前と推定されている。
X線と中性子トモグラフィで「見えない水」を可視化
研究チームがBlack Beautyの分析に用いたのは、X線と中性子トモグラフィの組み合わせだ。X線トモグラフィは隕石内の鉄やケイ素といった最も密度の高い部分を特定する。一方、中性子トモグラフィはこれまでのX線検査では「穴」に見えていた領域が、実は含水鉱物(hydrous materials)だったことを明らかにする。Paul Scherrer Institute(PSI)の科学者David Mannes博士は「中性子は水素に特に敏感である」と指摘する。Mannes博士と共同研究者のAnders Kaestner博士がPSIで中性子トモグラフィを担当した結果、研究チームは微細な含水鉱物だけでなく、より大規模なマクロスケールの水素沈着物を世界で初めて可視化することに成功した。
初期火星の水循環が地殻に刻まれていた
この分析から浮かび上がるのは、初期火星が地表と地殻に相互作用するほど大規模な水貯蔵層を持っていたという事実だ。その水が地殻の岩石に浸透し、やがてBlack Beautyへと変化していった。興味深いことに、Black Beautyから検出された含水物質は、NASAのPerseveranceローバーがJezero Craterで採取した物質と類似している。これらの証拠は、数十億年前の火星がはるかに温暖で湿潤な惑星であったことを強く示唆する。
古い火星の謎を解く上で、火星起源隕石の重要性は明白だ。しかし現状、科学者たちは隕石に頼るしかない。NASA-ESA火星サンプルリターン(Mars Sample Return)ミッションは経費の膨張を理由に米国議会によって中止されてしまい、Perseveranceローバーが火星表面に置き去りにしたサンプルチューブは宙に浮いたままである。代わりに中国のTianwen-3ミッションが次の十年間のうちに火星サンプルを地球へ返送する計画を立てており、火星試料の地球への直接輸送を初めて実現する可能性を秘めている。
出典: Universe Today
