欧州宇宙機関(ESA)の火星探査機エクソマーズ・トレース・ガス・オービター(ExoMars Trace Gas Orbiter)が、打ち上げから10年以上経過した現在でも、火星大気中のメタンを検出できていないことが明らかになった。当初の科学目標の達成が困難な状況にあり、ミッション戦略の見直しを迫られている。

期待と現実のギャップ

エクソマーズ・トレース・ガス・オービターは2016年3月に打ち上げられ、火星大気に含まれるメタンやその他の微量気体を観測する目的で開発された。地球上のメタンの大部分は生物活動に関連しており、火星におけるメタン検出は潜在的な微生物生命の存在を示唆する可能性があるとして、世界中の研究者から大きな期待を集めていた。しかし現在までのところ、同機が搭載する高精度分光計(ACS)による検出報告は上がっていない。2003年のメタン検出報告以降、観測データが不安定であり、確実な検証が困難とされている。

ミッションの背景と課題

火星大気のメタン濃度は極めて微量で、数十億分の一程度のレベルとされる。ESAと露宇宙庁ロスコスモスの共同プロジェクトとして進められてきた同ミッションは、人類がこれまで利用可能な観測手段では捉えられない微小な濃度変化を検出する必要があった。近年、衛星観測データの再解析から、かつて報告されたメタンシグナルが実は測定誤差や大気変動の影響である可能性が指摘されている。これにより、火星のメタン発生メカニズム自体の解明が、予想以上に複雑であることが認識されるようになった。

今後の観測戦略

ESAはこうした状況を踏まえ、観測機器の調整や新たな解析手法の導入を検討している。NASA の火星探査車パーサヴィアランスやESA・ロスコスモスの火星探査機ロザリンド・フランクリン(2028年打ち上げ予定)など、複数のミッションが火星大気化学の謎解きに当たることになる。メタン検出の困難さは、火星の地球化学的複雑性を改めて示すものであり、より高度な観測技術と多角的なアプローチの必要性を浮き彫りにしている。

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