ブラックホール「毛髪」の痕跡を重力波で検出できる可能性
ブラックホール合併時に放射される重力波の「鳴き止み」(ringdown)の特性を詳しく調べることで、ブラックホールが古典的な理論とは異なる構造を持つ場合を見分けられるという研究が発表された。名古屋大学のアリアドナ・ウスエ・パロミーノ・イヤらの研究チームが、異なるブラックホールモデルの合併シミュレーションを比較したもので、各モデルが独自の「署名」を持つことを明らかにした。
古い理論の限界と新しい検証方法
理論物理学では長年、「無毛定理」(no-hair theorem)という考え方が支持されてきた。これはジョン・ウィーラーが提唱した概念で、ブラックホールの事象の地平面は独特の特徴を持たず、したがって「ブラックホールは毛髪を持たない」という意味である。ブラックホールの構造は質量、回転、電荷の3つのパラメータだけで完全に決定されるというのが無毛定理の主張だ。何をブラックホールに落とし込んでも、すべての情報と原子構造は無関係になり、統一的な性質を持つはずだという理論である。
しかし無毛定理は一般的に証明されていない。静定状態のブラックホールは一般相対性理論に従えば毛髪を持たないと考えられるが、ブラックホール合併の際には状況が複雑になる。パロミーノ・イヤらの研究は、この合併過程に焦点を当てた。
異なるモデルが異なる信号を発する
研究チームは標準的なブラックホールモデルと複数の変種モデルを比較した。ひとつはハイワード・ブラックホール(Hayward black hole)で、ショーン・ハイワードが提案したモデルである。一般相対性理論に従いながらも、物質が非特異な量子状態に達すると仮定しており、通常のブラックホールのような厳密な特異点や事象の地平面を持たない。そのため無毛定理は適用されず、この意味で「毛髪」を持つ。
もうひとつはバルディーン・ブラックホール(Bardeen black hole)である。ジェームズ・バルディーンはブラックホール熱力学の法則の研究で知られており、このモデルではブラックホールが放射する電磁構造を持つため、やはり毛髪を備えている。
ハイワード・ブラックホールペア、バルディーン・ブラックホールペア、標準的なブラックホールペアの各合併をシミュレーションした結果、それぞれの鳴き止み周波数と減衰率が異なることが判明した。さらに、重力波が放出される過程は事象の地平面付近の時空構造そのものを調べる手がかりになる。一般相対性理論が予測する真の真空状態が存在するのか、それとも量子揺らぎが関与するのかを検証できる可能性を示唆している。
現在の重力波観測施設では、これらの微細な差を検出する感度は不十分だ。しかし技術が進展すれば、ブラックホール合併が質量、回転、電荷以上の多くの情報をもたらすことが明らかになるかもしれない。
出典: Universe Today
