火星からのフォボス日食観測 パーサヴィアランスが捉えた天文現象
火星の地表に立つ場所でしか見られない天文現象がある。それが、小惑星のような形をした天体が太陽の前を横切る光景だ。NASAの火星探査機パーサヴィアランス(Perseverance)は2026年8月12日、火星時間Sol1948において、Mastcam-Zカメラを使ってこの珍しい現象を捉えた。火星の衛星フォボスが太陽を横切る瞬間である。
フォボスは火星の表面からわずか6000キロメートル弱の軌道を周回し、火星の自転より早い7時間39分で赤い惑星を一周する。最大時でも太陽の見かけの円盤の4分の1程度しか覆わず、太陽の円盤を横切る時間は1分足らずで、肉眼でもその動きを追うことができる。不規則なジャガイモのような形をしたフォボスは、完全な日食というより、いびつな金環日食のような見た目をしている。
太陽観測の科学的価値
このような撮影が安全に行われるのは、Mastcam-Zが日食グラスのような太陽フィルターを使用しているからだ。Space Science Instituteのマーク・レモン氏は「フィルターの装着を太陽に向ける前に済ませる。別の順序では機器が傷むことはないが、単なる予防措置である」と説明している。遠隔観測マスト上の機器は太陽に向けた状態でも損傷を受けることはない。
フォボスの太陽通過を観測することは、単なる珍しい光景の記録にとどまらない。これらの画像から、火星の衛星の正確な位置を特定でき、その精度は100メートルより優れているという。地球最大の望遠鏡よりも、火星表面にいるローバーのほうが、フォボスの軌道をより正確に把握できるのである。
火星内部構造の解明につながる長期観測
軌道位置の正確な測定は、単に衛星の位置を知るためだけではない。フォボスが火星に及ぼす潮汐力によって、衛星の軌道は時間とともに変化する。この変化を追跡することで、火星とフォボスの内部構造に関する情報が得られるのだ。火星のマントルの柔軟性を調べるプローブとなる。
1977年にバイキング1号が、そして2004年にはオポチュニティが火星表面からフォボスの太陽通過を初めて直接観測して以来、キュリオシティとパーサヴィアランスも時折、火星の空を観察してきた。30年近くにわたってスピリット、オポチュニティ、キュリオシティ、そして現在のパーサヴィアランスが集めた高精度データの蓄積が、火星の内部構造研究に欠かせないものとなっている。
火星の衛星に関する知見の蓄積は、近い将来の有人探査にも直結する。JAXAとNASAの共同ミッション「火星衛星探査計画」(MMX)は2026年10月19日、日本の種子島宇宙センターからH3-24Lロケットで打ち上げられる予定であり、火星の両衛星へのアプローチと着陸に向けた準備が進められている。
出典: Universe Today
