ブラックホールの謎を解く「二層構造」――吸積円盤とジェット噴出の新しい関係
超大質量ブラックホール(SMBH)が放出するジェットは、相対論的な速度で数百万パーセク彼方にまで到達する宇宙最大級のエネルギー現象だ。しかし長年、ある矛盾が天体物理学者らを悩ませてきた。ジェット噴出を駆動するには大規模磁場が必要なのに、急速に物質を吸い込むブラックホールの周りでは、そうした磁場を維持できない薄い吸積円盤が主流だからである。東北大学の野田浩史准教授と名古屋市立大学の波田明宏らの研究チームが、この矛盾を解く鍵を発見した。
「Blandford-Znajek機構」の要求と現実のズレ
ジェット噴出は一般的にBlandford-Znajek機構(BZ機構)による説明が支持されている。これはブラックホールの自転エネルギーを大規模磁場経由で取り出すメカニズムだ。BZ機構が機能するには強い大規模磁場が不可欠だが、吸積円盤には二つのタイプが存在する。一つは温かく幾何学的に厚い円盤、もう一つは冷たく幾何学的に薄い円盤である。高速で物質を吸い込む環境では、通常は薄い円盤が支配的になり、大規模磁場を維持できない。それなのに、こうした薄い円盤を持つブラックホールからもジェットが放出されている。この一見矛盾した状況が、研究チームが調査対象に選んだ理由だ。
4億2000万光年先の銀河で二層構造を発見
研究チームは、地球から4億2000万光年離れた活動銀河3C 120に注目した。この銀河は、相対的に高速の物質吸い込みと強力なジェット噴出を同時に行う特異な特性を持つ。X線撮像分光ミッション(XRISM)、グローバルミリ波VLBI配列(GMVA)、超長基線干渉計配列(VLBA)、東アジアVLBIネットワーク(EAVN)を用いて、最先端の観測を実施した。野田准教授は「X線と電波の最新鋭望遠鏡で同じブラックホールを観測することで、ブラックホール周辺の極端な環境とジェット形成を直接つなぐことができた」とコメントしている。
XRISMが観測した円盤内の鉄の輝線と、一般相対性理論から導き出される歪みを組み合わせると、円盤がブラックホールからどの距離まで接近しているかが判明した。その結果、円盤は途中で途切れており、内側は異なる構造を持つことが明らかになった。吸積円盤は外側の冷たく薄い部分と、内側の温かく厚い部分の二層構造をしていたのだ。相対論的に広がった鉄輝線スペクトルから、冷たく幾何学的に薄い円盤は重力半径の約20倍の距離で途切れ、その内側は熱い厚い流れに置き換わることが示された。
この発見は『The Astrophysical Journal Letters』に掲載された論文「Disk Truncation Triggers Relativistic Jet Launching of a Highly Accreting Supermassive Black Hole」で報告されている。長年の謎―高速吸い込み環境で大規模磁場がどのように維持されるのか―へのアプローチが、ついに観測的に形を結んだ。
出典: Universe Today
