ブラックホールが二つに分裂する条件――欧州の研究チームが理論計算で可能性を示唆
強い重力を持つブラックホールが物理的に分裂する可能性があるという、一見すると奇想天外な研究結果が、イタリアとデンマークの研究チームから報告された。ナポリ・フェデリコ2世大学のフランチェスコ・サンニーノと、デンマーク南ユトランド大学の量子場理論センター、パリの理論物理・高エネルギー物理学研究所のジャコモ・カッチャパリア、同量子場理論センターのマヌエル・デル・ピアーノとヴァニア・ヴェルッチらが行った計算では、特定の条件下でブラックホール一個が二個に分裂する可能性が示唆されている。
これまでブラックホールは衝突することは知られていたが、その強大な重力のため、何らかの外力によって引き裂かれることはほぼあり得ないと考えられてきた。衝突時には重力波を放出し、巨大な爆発現象が起こるとされている。
回転するブラックホールにのみ可能性
分裂が起こるためには、二つに分かれたブラックホールが互いに離れたまま存在する必要がある。サンニーノは「すぐに落ちもどってしまわないよう、二つのブラックホールが十分に分離していることが条件になる。この要件を加えると、分裂の可能性はほぼ閉ざされてしまう。ただし、最大限の回転速度に近い速度で自転しているブラックホールの場合だけは例外かもしれない」と述べている。
分裂が進行する過程では、ブラックホールのイベントホライズン(事象の地平線)がズボンの脚のような形状を形成するという。この特徴的な形状から、研究チームはこれを「ズボンの脚トポロジー(pair-of-pants topology)」と呼んでいる。
問題となるのはエントロピー(熱力学的な状態の自由度を示す物理量)の概念である。静止したブラックホールをニ片に分割すると、エントロピーが減少し、熱力学的に実現しにくくなる。しかし回転速度が非常に高いブラックホールの場合、回転がもたらす質量と角運動量とエントロピーの関係の変化が、ブラックホールの分裂につながる可能性があるとされている。分裂後、二つのブラックホール「双子」は元の運動量と速度を保ったまま分離していく必要がある。
検出の可能性と今後の課題
実際にこのような分裂現象が起きたという観測報告は、これまでのところない。サンニーノは「ブラックホールが分裂する確率を一つに定めることはまだできない。アインシュタイン理論を超えた領域での重力の振る舞い方に左右されており、私たちはこれを定量化する努力を続けている」と説明する。理論上、小さな原始ブラックホールほど分裂しやすく、大型の天体物理学的ブラックホールは分裂しにくいと考えられている。
間接的な検出の方法も検討されている。ガンマ線観測装置フェルミ・ラージ・エリア・テレスコープ(Fermi-LAT)などのガンマ線望遠鏡は、ブラックホール合体時に形成される微小な破片から放射される信号を捉えることができる可能性があるとみられている。
出典: Universe Today
