ベンヌの”二重人格”──木星が仕組んだ謎

OSIRIS-REx探査機が採取した小惑星ベンヌのサンプルから、予想外の事実が浮かび上がった。太陽系誕生直後の物質を保持するはずのこの小惑星が、内側と外側の両方の領域で形成されたような同位体の特性を示しているのだ。スイスの連邦工科大学チューリヒ校(ETH Zurich)とローレンス・リバモア国立研究所の研究チームがScience Advancesで発表した新しい論文は、この謎を解く鍵として木星を指摘している。

サンプル分析がもたらした矛盾

ETH Zurichに届いたベンヌのサンプル0.5グラムを分析したのは、同校の同位体地球化学教授マリア・シェーンベッハラーとその研究室だ。彼らが探していたのは、核合成同位体である。太陽系形成の46億年前、誕生したばかりの太陽の周囲は均一ではなく、異なる領域に鉄・チタン・クロムといった元素の同位体が異なる割合で分布していた。

これまで他の小惑星と隕石の研究から、小惑星は二つのグループに分かれることが知られていた。非炭素質(NC)小惑星は地球のような地球型惑星が形成された内側の太陽系由来。一方、炭素質(CC)小惑星は冷たく揮発性に富んだ外側の太陽系で形成されたものだ。ベンヌは従来、CI炭素質コンドライト(CC小惑星の一種)に分類されていた。この種の隕石は地球で発見された全隕石の0.0127%未満と極めて稀なため、未処理のサンプル取得は科学的には極めて価値が高い。

研究チームが期待したのは、ベンヌのサンプルがCC小惑星の特性を示すことだった。しかし結果は複雑だった。チタンとクロムの同位体は予想通りCC小惑星の特性を示したが、鉄については内側の太陽系で形成されたNC小惑星に似た特性を呈していたのである。

木星が作った”塵の渋滞”

より詳しく調べるため、研究チームは放射性マンガン53の減衰を利用してベンヌの形成時期を測定した。太陽系で最初の固い岩が誕生してから約200万年後というのが結論だ。外側の太陽系では、より疎らな物質からこれほど短い期間で小惑星が集積することは困難だったはずである。さらにベンヌからは、この領域で形成されたと考えられる彗星に見られるような重い水素と窒素が欠けていた。

これらの観測データを踏まえ、研究チームは一つの仮説を提示した。犯人は木星だというのだ。

ベンヌが形成された時代、木星はすでに地球の23倍の質量に成長していた。この巨大ガス惑星は周囲の塵やガスを切り裂き、その軌道の内側と外側に残留する圧力隆起を生み出していた。この圧力隆起のおかげで、微細な塵粒は木星の軌道を太陽側に横切って移動できた。しかし、ミリメートル単位の融解した粒子(コンドルール)は外側の圧力隆起に閉じ込められ、太陽系の中心方向への移動が阻止されたと考えられる。

特に重要なのは、この圧力隆起が水と氷の境界線である「雪線」とほぼ一致していたことだ。ベンヌ形成当時、この雪線は木星の軌道のすぐ内側に位置していた。外側から流れ込んだ塵がこの雪線と圧力隆起に衝突すると、まるで交通渋滞のように塵が堆積し始めた。やがてこの"塵の塊"がベンヌのような小惑星の種となり、外側から流れ込み続ける塵が堆積していったのである。

この形成メカニズムにより、ベンヌが内側と外側の太陽系の両方の特性を帯びるようになったと説明される。その後、数十億年をかけて無数の衝突と重力的な摂動を受けながら、ベンヌはやがて地球近傍小惑星(NEA)へと軌道を変化させていった。

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出典: Universe Today