星間彗星3I/ATLASが秘めた「重い水」の謎

星間彗星3I/ATLASから検出された炭素と水の同位体比が、太陽系の天体とは大きく異なることが、日本の理化学研究所先端科学研究所の古屋賢二率いる研究チームの論文で示された。この論文は天体物理学ジャーナルレターズ(Astrophysical Journal Letters)に投稿されており、arXivのプリプリント版で閲覧可能である。

2025年7月に発見された3I/ATLASは人類が知る3番目の星間訪問者として、世界最高峰の観測施設の注目を集めた。その過程で浮かび上がったのが、同位体組成の異常さである。古屋ら研究チームは、この現象が3I/ATLASが生まれた星生成領域の「低金属量」環境に由来するものと結論づけている。

炭素の異常な比率

3I/ATLASに含まれる炭素の同位体比は極めて特異である。C-12(陽子と中性子が合わせて12個)とC-13(中性子がひとつ多い)の比率は、通常、太陽系の天体では約90付近に収まる。一方、星間空間全体では平均約68程度だが、3I/ATLASでは123から191という予想外の高い値を示していた。この彗星が過去数十億年のあいだ移動してきた領域のいかなる物質とも一致しない数値である。

「重い水」が濃縮された成因

より顕著な異常は水分子に見られた。水素にはデュテリウム(重水素)という中性子を余分に持つ同位体が存在する。3I/ATLASの水中のデュテリウムと通常の水素の比率は約1パーセントで、太陽系の典型的な彗星が示す0.015から0.03パーセントを大幅に上回っていた。

古屋の研究チームは、この同位体の異常を再現するため、星間雲から星形成へ至る水氷のライフサイクル全体をシミュレーションした。特に焦点を当てたのは、星間空間の深部で起きる現象である。その領域の温度は約10ケルビン(セルシウス温度で約マイナス263度)と極低温であり、通常の化学反応は進行しない。

デュテリウム分別(deuterium fractionation)と呼ばれる現象が、この超低温環境下で起きる。宇宙線がガスに衝突し、三原子水素イオン(H3+)を形成する。このH3+が重水素化水素分子(HD)と衝突すると、H2D+、通常の水素分子H2、そして微量のエネルギーが生じる。この温度では、この反応が通常は双方向性を持つにもかかわらず、H2D+をもとの不活性なHD形態に戻すエネルギーが不足するため、デュテリウムが不安定なH2D+の形のまま閉じ込められる。やがてH2D+が電子と衝突して分解され、原子状のデュテリウムが解放される。これが酸素原子と結合することで、太陽系では予想されない高い比率の「重い水」が形成されるのである。

論文によれば、この高いデュテリウム濃度を説明する要因は、3I/ATLASの低金属量環境に関連する3つの主要な理由に帰結する。第一に、その領域における一酸化炭素分子(CO)の量が少なかったこと。COはH2D+を破壊するため、COが少なければH2D+がより長く生存でき、デュテリウム原子の生成が促進される。第二に、「水素の洪水」と呼ばれる現象が生じていないこと。金属量が豊富な環境では、紫外線光子が水を分解してOHと水素原子Hを生成し、原子状の水素が溢れることでデュテリウム比が希釈される。一方、金属量の低い環境では水の分解が限定的であり、D/H比が維持される傾向にあるのである。

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出典: Universe Today