月の形成メカニズムを左右する「温度と強度」—新たなシミュレーション研究が定説を揺さぶる
月はどのように誕生したのか。約45億年前、火星サイズの原始惑星テイアが若き地球に衝突し、その破片が軌道上で集合して月が形成されたと考える「ジャイアント・インパクト仮説」が広く受け入れられている。しかしこの劇的な衝突シナリオの詳細については、謎が残ったままだ。南西研究所(Southwest Research Institute)の太陽系科学・探査部門でポスドク研究員を務めるアデイン・デントン博士らの研究チームが、この古典的な仮説を問い直す新たなシミュレーション結果を『アストロフィジカル・ジャーナル・レターズ』誌に発表した。
彼らが注目したのは、衝突に関わる物質の温度と強度である。これまでのモデルでは、これほどのエネルギーを伴う衝突では物質の強度は無視できるほど小さいと考えられていた。だが今回、温度に依存する物質強度を初めて現実的に組み込んだスムーズド・パーティクル・ハイドロダイナミクス(SPH)シミュレーションを実施した結果、その想定が揺らいだ。
温度が決める、月の誕生シナリオ
物質は温度が高いほど弱くなり、温度が低いほど強くなる。デントン博士のチームが明らかにしたのは、この物質物性が月形成に「かなり大きな影響を及ぼす」ということだ。テイアの外側数百キロメートルの領域において、強度が低いために変形しやすいと、運動量の伝達メカニズムが変わり、月がどのように形成されるかが根本的に異なるという。
具体的には、衝突時にテイアが熱く柔軟な状態であれば、月はほぼ無傷のまま形成される。一方、冷えてより強くなったテイアとの衝突では、古典的なモデルが予測する「原始月面円盤」が生じる。原始月面円盤は主にテイアのマントル物質からなり、地球の物質がほとんど混じらない。この場合、月は時間をかけて軌道上の破片円盤から集合する。
だがこれが厄介だ。古典的モデルでは月の組成は地球と異なるはずだが、同位体調査では両者がほぼ同じ組成をしているからだ。
形成時間も劇的に変わる
衝突時の地球とテイアの温度条件次第で、月がわずか数時間で完成する場合もあれば、より長い時間をかけて形成される場合もある。デントン博士は、元々のインパクト・モデルの条件を完全に再現したシミュレーションで、約5時間のうちに無傷の月が出現することを確認した。物質の強度を組み込むことで「ジャイアント・インパクト仮説の力学と月形成の時間および地球化学的性質との間に、重要な新たなつながりが確立された」と研究チームは指摘している。月の起源を巡る長年の謎は、原始惑星の冷却史という新たなレンズを通して見直される局面を迎えた。
出典: Universe Today
