金星の謎の紫外線吸収物質、光学データから「極めて強力な吸光分子」と判明

金星の大気上層に浮遊する物質の正体に、100年以上続く謎に一石が投じられた。Jan Spacekとその国際研究チームが学術誌Astrobiologyに発表した論文は、JAXAの金星探査機あかつきから得られた高解像度反射率データを用いて、金星の雲を構成する物質がどれほど紫外線を吸収するかを逆算で算出。その結果、375ナノメートル付近の紫外線領域で、通常では考えられないほど高い吸光性を持つ物質が存在することを明らかにした。

金星は可視光では黄色く見えるが、紫外線領域では劇的に異なる顔を見せる。雲の表面には明暗のはっきりした筋状のパターンが縞模様のように浮かび、これが金星の4日周期の大気循環に同期して回転する。この紫外線での高いコントラストの正体が「未知の紫外線吸収物質」とされてきた。

散乱か吸収か、光学現象の区別が鍵

謎を解く際、科学者たちが直面したのは散乱(Mie scattering)と吸収の区別である。研究チームは既存の反射率データから散乱の光学効果、気体吸収、粒子サイズといった要因をすべて取り除き、「線減衰係数」という物質の吸光特性を示す値を計算した。その結果、375ナノメートルでピークを迎える吸収が急激に減少することが判明。ピーク時の吸光性は極めて高く、金星の雲粒子に含まれる物質は「色素団」と呼ばれるきわめて効率的な光吸収分子である必要があると示唆された。

有機物か無機物か、相反する制約条件

得られたデータは、これまで金星研究者が想定してきた無機化合物説に疑問を投げかけている。塩化鉄や硫黄化合物といった無機物質がこうした吸光性を実現するには、雲粒子に含まれる濃度が他の気溶質モデルでは物理的に不可能な水準に達する必要があるのだ。

一方、有機分子であれば十分な吸光性を持つ可能性がある。しかし金星の雲は硫酸で構成されており、ホルムアルデヒドやグルコースといった単純な有機物は硫酸中で「赤いタール状」の構造を失った物質へと分解してしまう。そうなると光吸収の波長特性が均一になり、あかつきのデータが示す455ナノメートル付近での急激な減衰現象が説明できない。つまり有機物が原因であるなら、硫酸中で分解を免れ、特定の分子構造を保つか化学的な平衡状態を維持する必要があるということだ。

今後の直接観測に期待

遠隔観測だけでこの両説のいずれが正しいかを特定するのはほぼ不可能とされる。近い将来の金星探査ミッションがこの問題の解決を担う見通しもある。Rocket Labが計画する民間ミッションでは、440ナノメートルのレーザーを雲に照射し、複雑で共役した有機分子特有の蛍光反応を検出する自動蛍光計測装置(AFN)を搭載する予定。この直接測定により、金星の紫外線吸収の謎がようやく解き明かされる可能性が高まっている。

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出典: Universe Today