月の収縮で新たな崖が形成―月面探査ミッションへの新たなリスク
月は今も冷え続けており、その過程で徐々に縮小している。この現象は月の表面に刻まれた痕跡から追跡されている。スミソニアン博物館付属の国立航空宇宙博物館(National Air and Space Museum)地球惑星研究センター(Center for Earth and Planetary Studies)のトマス・ワッターズを筆頭とする研究チームが、月の収縮率を新たに算出し、その過程で生じる地滑りが月面ミッションの潜在的な危険要因となりうることを指摘した。研究結果は『惑星科学ジャーナル』(The Planetary Science Journal)に「月の推力断層と後期段階の収縮」(Thrust Faulting and the Late-stage Contraction of the Moon)という論文として発表されている。
数千の断層から読み解く月の冷却過程
月の収縮を示す証拠となるのは「若い推力断層崖」(young thrust fault scarps)と呼ばれる地表の地形である。個々の崖は小規模だが、これらを集計することで惑星科学者は月の収縮速度を算出できる。ワッターズらの研究チームは、月周回衛星「ルナー・リコナイサンス・オービター」(NASA's Lunar Reconnaissance Orbiter、LRO)のカメラが撮影した画像を分析した。17年間にわたって月を観測し続けているLROは、地球に最も近い極軌道を回る衛星で、南北極域の暗い火口領域を除いて月の表面98パーセント以上を100メートル解像度で地図化している。
LROに搭載される「月周回衛星カメラ」(Lunar Reconnaissance Orbiter Camera、LROC)の主要部品である「狭角カメラ」(Narrow Angle Camera、NAC)のデータにより、研究チームは月の高地と月の海(mare)両地域で数千の若い推力断層崖を発見した。こうした広範囲に分布する地形の存在は、LROが2009年に運用を開始するまで明確には認識されていなかった。アポロ計画の宇宙飛行士らは限定的な数の崖を確認していたものの、大規模な分布状況の把握には衛星観測が不可欠だったのである。
36億年の地質史の中で最近の現象
研究チームが明らかにした重要な点は、月が数十億年前から収縮していたとしても、断層崖が形成されるほどの圧力は比較的最近になってようやく生じたということである。論文では「月は過去36億年の間に小さな放射状の収縮を経験しており、これは伸張応力バイアス(extensional stress bias)から圧縮応力バイアス(compressional stress bias)への転換以降のこと」と記されている。つまり、月の初期段階では地殻は主に引き裂かれていた。グラーベンと呼ばれる長く狭い溝や直線的な裂け目(straight rilles)がその証拠で、これらは放射性物質の崩壊熱によって生じたと考えられている。一部の構造は長さが数百キロメートルに及ぶ。
しかし熱源が減少するにつれて、この伸張の時代は終焉を迎えた。その後、月は冷却局面へ移行し、圧縮応力が支配的となり、LROが記録した断層崖が形成される条件が整った。このため、観察されている推力断層崖は比較的若く、約300~400万年前のものと推定されている。研究チームの指摘では、もし断層形成が36億年前から継続していたならば、火星や水星に見られるような数百メートルの高さと数十~数百キロメートルの長さに達する断層崖へと成長していたはずだという。現在、月の冷却と収縮が進むにつれて、断層崖の数はさらに増加していくと予測されており、将来の月面探査ミッションにおいて、こうした地形による落石や地滑りへの対策が重要性を増していくと考えられる。
出典: Universe Today
