惑星が見つからない観測も、実は貴重なデータ 70 Oph AB連星系の百年調査が示すもの

太陽系外惑星の発見を目指す観測において、「惑星が存在しない」という結果も科学の前進につながることが注目されている。ミシガン大学天文学部の研究チームが70 Oph AB連星系を対象に行った調査は、木星級の大質量惑星が存在しないことを明らかにした。この一見すると失敗に見える結果が、むしろ将来の太陽系外惑星探索にとって重要な指標となっている。

研究成果は『アストロフィジカル・ジャーナル』に掲載され、論文のタイトルは「70 Oph ABの百年にわたる視線速度ならびに位置天文観測:新たなPFS(惑星ファインダースペクトログラフ)データと惑星コンパニオンへの制約」。筆頭著者はミシガン大学天文学部のポスドク研究員であるイティング・リ(Yiting Li)氏である。

調査対象の70 Oph ABは、地球から5.1パーセク(約16.7光年)の近傍に位置する連星系だ。両星はいずれも主系列星で、約62億年の年齢を持つ。70 Oph Aは太陽質量の約0.89倍、70 Oph Bは約0.73倍という比較的小さな星である。この距離と星の特性から、今後の直接撮像や位置天文学的ミッションにおいて「成熟した陸地型惑星を探査する最も適した観測対象の一つ」と位置づけられている。

百年分のデータから見えた星の営み

研究チームはチリに設置されたマゼラン・クレイ望遠鏡(6.5メートル)の惑星ファインダースペクトログラフ(PFS)を使用し、視線速度(radial velocity)法によって惑星の有無を調査した。2025年には70 Oph Aから499回、70 Oph Bから334回の測定を実施。これらの新たなデータを数十年分の視線速度アーカイブと組み合わせることで、特に70 Oph Aについては27年分の基線データを確保した。

解析の結果、両星の長期的な視線速度変動は恒星の自転によって調整される恒星活動と一致することが判明した。研究チームは「いかなる成分からも首尾一貫した惑星シグナルを検出しなかった」と報告している。つまり、観測された変動は惑星の重力効果ではなく、星自体の活動に由来するものだったのだ。

筆頭著者のリ氏は「失望と興奮が入り交じった状況」とコメント。木星級の惑星が存在しないことは残念だが、同時に「この歴史的なシステムについて最新の章を開いている」という姿勢を示している。

将来の探査戦略を支える制約条件

惑星が見つからなかったことは、逆説的に、70 Oph AB系の惑星分布に関する明確な制約条件をもたらした。70 Oph Aについては、軌道長半径5天文単位(au)以内の木星質量の惑星が存在しないことが確認された。70 Oph Bでは、軌道長半径0.5天文単位以内に土星質量の約0.25~0.3倍の惑星が存在できないとされた。一方で、土星質量以下の惑星であれば、70 Oph Aの周囲を約2.5天文単位まで安定して公転することが可能である。

ミシガン大学天文学部長で上席共著者のマイケル・マイヤー(Michael Meyer)氏は「新たな制約条件により、将来の探索戦略を最適に設計できるようになった」と指摘する。同大学は二連星を対象とした宇宙ミッション「SHERA」の研究チームに参加しており、70 Oph ABはその主要な観測対象候補のひとつ。さらにNASAのハビタブル・ワールド・オブザーバトリー(Habitable Worlds Observatory)といった次世代フラッグシップミッションでも確実に観測対象となるという。

銀河系の恒星の多くが連星系であることを考えると、今回の成果は単一の星系の調査にとどまらない意義を持つ。視線速度法は連星系における惑星検出に優れており、こうした地道な否定的結果の積み重ねが、将来の惑星探査における観測時間配分や優先順位の決定を支えていくことになるのだ。

関連動画

出典: Universe Today