火星往路で3%の細胞が被曝するも、その波紋が全身に広がる――宇宙放射線がん化メカニズムの全容

深宇宙への長期飛行は、放射線被曝という深刻なリスクをもたらす。火星への往復3年の旅では、宇宙飛行士の約3%の細胞が銀河宇宙線に直撃されると推定されている。一見すると97%の細胞は無傷に思えるが、オクラホマ州立大学とテキサス大学健康科学センターの研究者らが明らかにした新知見は、この認識を覆すものだ。被曝した細胞が周囲の健全な細胞へ炎症シグナルを送信し、広範ながん化を招く「放射線誘発バイスタンダー効果」の詳細なメカニズムが初めて解明された。

鉄イオンが引き起こす連鎖反応

研究チームは、ブルックヘイブン国立研究所のNASA宇宙放射線研究室で、ヒト大動脈内皮細胞に鉄56(Fe-56)イオンビームを照射する実験を実施した。直撃を受けた細胞は単に損傷するのではなく、炎症を司る転写因子NF-κBを活性化させ、腫瘍壊死因子アルファ(TNF-α)と呼ばれる分子を大量産生する。このTNF-αの一部は、産生元の細胞表面に戻って付着し、オートクライン・ループと呼ばれる自己増幅回路を形成。この炎症シグナルが3日以上にわたって増幅され続けるのだ。

隣接細胞への「目に見えない被害」

より重要なのは、産生されたTNF-αが隣接する未被曝の細胞へも流出することだ。研究チームは、被曝した内皮細胞と正常な肺上皮細胞を多孔質メッシュで隔て、液体培地を介してのみ化学信号が伝わるよう設計した実験系を構築した。物理的に接触しない状態であっても、隣接細胞はTNF-αによる影響を強く受け、遊離基の急増とDNA二本鎖切断が著しく増加した。さらに重大なことに、TNF-αはこれらの細胞の抗死亡遺伝子を活性化させ、成長シグナルを起動。通常であれば細胞ががん化を防ぐために用いるメカニズムが、まさにその部分で破壊されたのだ。

マウスモデルでの検証により、被曝細胞の近くにあっただけの非がん性上皮細胞が腫瘍を形成することが確認された。直接放射線の直撃を受けなかった細胞が、隣の細胞を介するだけでがん化するという事実は、宇宙放射線がんのリスクがこれまで考えられていたよりはるかに広範であることを示唆している。

2021年のSpaceX Inspiration4ミッションから採取された宇宙飛行士の血液サンプルと組織生検データを分析したSpace Omics and Medical Atlas実験のデータも、全身的なTNF-α上昇と抗死亡遺伝子の活動亢進を裏付けている。

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出典: Universe Today