月探査経済を支える「人と技術」 米国の宇宙競争力維持に何が必要か
1969年のアポロ月面着陸以来、米国が享受した科学的発見と戦略的優位性を再び手にするため、NASAは月への再訪と火星へのミッションを計画している。その実現の鍵となるのが、シスルナー空間(月周辺軌道)での探査活動だ。NASA長官のジャレッド・アイザックマン氏は5月の記者会見で、「われわれが宇宙や月面という厳しく危険な環境に宇宙飛行士を送る理由」について、到達のために開拓する技術、得られる科学知識、そして地球上の生活を向上させる可能性に加え、「次に必ず進む場所での技能を習得するため」と述べた。
シスルナー探査を加速・拡大し、それが生み出す経済的収益で地球上の生活を改善しながら深宇宙ミッションと戦略的優位性を確保する。これが米国の構想である。実現には、実績のある民間企業パートナー、先進技術、熟練労働力が必要とされる。
実績から次世代へ――BAE Systemsの役割
BAE Systemsの宇宙開発部門は、シスルナー探査を主導する立場にある。同社の探査建築家ジョン・トローエルツシュ氏は「低軌道で活動する宇宙船は多いが、シスルナー探査には異なる、より深い経験と専門知識が必要」と指摘する。
同社はディープ・インパクト(2004年にすい星表面を探査)、火星偵察軌道船(2006年からの火星周回)、ケプラー宇宙望遠鏡(2009年以来2,662個の太陽系外惑星を確認)、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡といった多数のミッションで実績を積み重ねてきた。さらにナンシー・グレース・ローマン宇宙望遠鏡が2026年8月に打ち上げられ、宇宙の進化と惑星の居住可能性に関する謎を解明する予定だ。
BAE Systemsの民間宇宙ビジネス開発部門長クリスティ・バーテルス氏は「実績と新しい能力のパートナーシップ」が同社の強みだと語る。その象徴が、新型のAscentTM宇宙船である。Elevation製品ラインに加わったこの機体は、給油と高推力推進を含む高度な操縦能力で複数のペイロードを運べるよう設計されている。トローエルツシュ氏は、月周回軌道の衛星や月の高解像度画像撮影ペイロードを地球から月へ運ぶ役割を説明した。
同社はコロラド大学のL-CIRiSおよびNASAのLunarVISEミッション向けに分光イメージング装置を開発中だ。既存の技術を月表面での運用に適応させる取り組みで、トローエルツシュ氏は「われわれが構築方法を知っていることを、月の表面で動作するよう改良した」と述べた。
未知の環境を切り開く人材戦略
シスルナー環境での運用には新たな課題がある。月基地の日常的な運用には自律性が必要であり、これは高度なコンピューティング能力と地球との堅牢な通信体制を求める。そこで不可欠になるのが、卓越した人材である。
バーテルス氏とトローエルツシュ氏が挙げた高需要スキルは、自律システムと機械学習に加え、ソフトウェア開発、エンジニアリング、そして太陽系内での宇宙船の軌道操作に必要となる天体力学など多岐にわたる。バーテルス氏は「過去に例のない規模の問題解決に当たるには、複数分野での システムレベルの思考専門家が必要」と強調する。
宇宙企業がエンジニアと技術者を採用する一方で、経営専門家、科学者、マーケティングと通信の担当者も雇用する必要がある。シスルナー探査は、単一分野ではなく複数領域にまたがるプロジェクトなのだ。米国が国際競争で優位を保つには、技術と人材の両輪が求められている。
出典: SpaceNews
