星誕生の謎に迫る「イオン-中性粒子の分離」現象を検出
九州大学とマックス・プランク宇宙物理学研究所の研究チームが、星が生まれる前の段階である前主星核(prestellar core)内で磁場がどのような役割を果たしているかを解明する手がかりを得た。ドーリス・アルズーマニアン主任研究員を率いる国際チームが、電波天文観測技術を用いて、タウラス分子複合体に位置するL1544と呼ばれる前主星核を調査した結果である。
磁場が星形成を妨げる仕組み
星がどのようにして誕生するのかは長く謎に包まれてきた。現在の天文学では、ガスと塵の雲が崩壊して前主星核を形成し、やがて原始星へと進化すると考えられているが、その過程で磁場が果たす役割については不明な点が多く残されていた。
アルズーマニアン研究員は、強い磁場が前主星核に浸透していると指摘する。「磁場が強すぎると、重力による崩壊を遅延させ、結果として星の形成も遅れてしまう」と述べている。研究チームは、こうした強い磁場がどのようにして弱められるのかを調べるため、国際電波天文ミリ波研究所(IRAM)の観測データを分析した。
L1544はタウラス分子複合体内にあり、地球から140パーセク(約430光年)の距離にある。太陽系に最も近い星形成領域の一つとされている。
イオン-中性粒子の速度差から明かされた物理現象
研究チームは、前主星核内の活動を追跡する分子として、イオンのジアゼニリウムd1(N2D+)と中性分子のパラ単重水素化アンモニア(para-NH2D)を選定した。マックス・プランク宇宙物理学研究所のシルビア・スペッツァーノグループリーダーは、「この二つの分子は高密度領域で同じような位置に存在するため、追跡に適している」と説明する。
スペクトル解析と速度モデリングの結果、驚くべき発見が得られた。二つの分子の間に約0.05km/秒の明確な速度差が検出されたのである。この現象は「アンビポーラル拡散」(ambipolar diffusion)と呼ばれるもので、プラズマ内の中性粒子がイオンから分離する際に発生する。
前主星核の密度が増す過程で、中心部は放射から保護され、電離が抑制される。その結果、中性粒子と磁場の結合が徐々に弱まっていく。中心に向かって落下する中性粒子は速度を増す一方で、イオンは磁場に結合したまま移動が遅れる。このイオンと中性粒子の速度差が、星の重力的な崩壊開始に必要不可欠な現象であることが明らかになった。
重力崩壊が進めば、前主星核の中心に原始星が形成され、やがては太陽系のような恒星系へと進化していく。今回の観測結果は、星誕生という「隠された秘密の出来事」に一層近づくための重要な知見となる。
出典: Universe Today
