矮星同士の衝突が生んだ「猫の尻尾」 長さ1000天文単位
地球から63光年の距離にあるベータ・ピクトリス星の周囲に広がるデブリディスク(塵の円盤)で、極めて異例な構造が発見されている。ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)が2024年に捉えた「猫の尻尾」と呼ばれる現象で、その長さは約1000天文単位にもおよぶ。アリゾナ大学の惑星科学科に所属する博士課程の学生アリン・アヴサル氏らの研究チームは、この異常な構造がどのようにして形成されたのかを解明した。
見えない「尻尾」の正体
ベータ・ピクトリス星系は観測の好条件に恵まれている。地球から見た時にデブリディスクが側面から眺められるため、その構造を高い解像度で捉えやすい。系内には直接撮像された惑星が3つ存在し、うちベータ・ピクトリス・c は直接撮像された系外惑星の中で最も母星に近い天体として知られている。
2024年に発表された研究論文では、JWSTの初観測データにより「曲がった拡張構造を持つ二次ディスク」が報告されていた。この特異な形状から「猫の尻尾」と命名されたこの構造は、ディスク内の一酸化炭素の塊や、ディスクの歪み、赤外線における非対称性といった他の異常な特徴とも関連しているとみられていた。
ところが不可解なことに、猫の尻尾はJWSTの赤外線観測では明らかに見えるのに、可視光では長く検出されていなかった。この謎に対し、アヴサル氏は「猫の尻尾が有機難分解物質からほぼ全て構成されている」と指摘する。有機難分解物質とは炭素を豊富に含む物質で、炭素の長い鎖構造が可視光を吸収し、非常に黒い特性を持つため、従来の可視光観測では発見できなかったのだという。
矮星衝突の痕跡
アヴサル氏らのチームは、ハッブル宇宙望遠鏡(HST)の分光撮像装置(STIS)を用いた新たな観測を実施した。2012年から2025年にかけて6回の観測を行い、散乱光による猫の尻尾の検出に成功した。この成果は『アストロフィジカル・ジャーナル・レターズ』に「β Pictoris Debris Disk: On the Scattered Light Component of the Cat's Tail」として2026年に発表されている。
アヴサル氏は「猫の尻尾は冥王星のような大質量天体同士の衝突後の産物」と述べている。この結論を支持する証拠として、猫の尻尾の主成分が有機難分解物質であることが重要な役割を果たした。太陽系においてこうした有機難分解物質は、カイパーベルト天体の赤い表面スペクトルをよく再現する。とりわけ冥王星については、NASAの無人探査機ニュー・ホライズンズが表面に硫黄化合物(tholin)という難分解有機物を発見しており、猫の尻尾の組成はこれらの天体の衝突シナリオと一致している。
出典: Universe Today
